経営支援最前線 会員コラム

中小企業の事業継続計画(BCP)策定に向けて

・・・第29回ミニTAMA東部会セミナー レポート・・・

JCG管理室 滝沢 悟

JCG管理室の滝沢です。JCGのWGテーマの一環として、「BCP(事業継続計画)」について、ミニTAMA東部会セミナー(H21.12.18)を取材してきましたので、BCPの概要説明も加味して以下に報告します。

1. セミナー概要

  • セミナー名称 第29回ミニTAMA東部会
  • 開催年月日・会場 平成21年12月18日(金)、西武信用金庫本店
  • テーマ「中小企業の事業継続計画(BCP)策定に向けて」
  • 講師 経済産業省関東経済産業省地域経済部地域振興課課長補佐 工藤浩一氏
  • その他 別テーマとして「事業継続計画(BCP)と新型インフルエンザ対策」他

注) ミニTAMA東部会: 社団法人首都圏産業活性化協会の東京都東部地域の活動組織 (事務局西武信用金庫)、TAMA→Technology Advanced Metropolitan Area技術先進首都圏地域の略

2. セミナー講演要旨

(1)BCPの必要性
 中小企業が直面している経営課題は多様であり、受注確保や事業承継などの平常時の企業存続のほか、地震、水害等の災害あるいは新型インフルエンザの感染拡大などの緊急事態に遭遇した場合の企業存続も重要な課題となってきています。こうした緊急事態の備えとして、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)があり、近年ではBCP策定を取引の必須条件と考える国内企業も増えてきています。

(2)BCPとは
 BCPとは自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合に、事業資産の損害を最小限にとどめながら、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、日頃から行っておくべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。

 緊急事態は突然発生します。有効な手を打つことができなければ、特に中小企業は経営基盤が脆弱なため、廃業に追い込まれる恐れがあります。また、事業を縮小し従業員を解雇しなければならない状況も考えられます。緊急時に倒産や事業縮小を余儀なくされないためには、平常時からBCPを周到に準備しておき、緊急時に事業の継続・早期復旧を図ることが重要となります。こうした取り組みをしている企業は、顧客の信頼を維持し、市場関係者から高い評価を受けることとなり、企業価値の維持向上につながることになります。

(図-1参照)


図-1 BCP(事業継続計画)の役割

企業が大地震などの緊急事態に遭遇すると操業率が大きく落ちます。何も備えを行っていない企業では、事業の復旧が大きく遅れて事業の縮小を余儀なくされたり、復旧できずに廃業に追い込まれたりする恐れがあります。一方、BCPを導入している企業は、緊急時でも中核事業を維持・復旧することができ、その後、操業率を100%に戻したり、さらには市場の信頼を得て事業を拡大したりすることも期待できます。(図-2参照)

図-2 企業の事業復旧に対するBCP導入効果イメージ

(3)BCP策定のためのヒント~中小企業が緊急事態を生き抜くために~
中小企業庁では、企業が自然災害等の緊急事態に遭遇した際に事業の継続を図るためのBCPの策定を推進しています。平成18年2月に公表した「中小企業BCP策定運用指針」(以下「運用指針」という)に基づいて、中小企業がBCPを策定する際に活用できるようにBCPの概要や策定方法等を整理したガイドブック「BCP策定のヒント~中小企業が緊急事態を生き抜くために~」を平成21年3月に作成しています。(図-3参照)

図-3 BCP策定のためのヒント(中小企業庁)

このガイドブックでは、ある中小企業の社長が地震等に備えたBCPを策定するまでのストーリー(例)を紹介し、BCP策定の流れがわかりやすく説明されていますので、「運用指針」と併せて、BCPの策定に役立てることができます。なお、「運用指針」は基礎コース、中級コース、上級コースの3段階に分かれており、企業レベルに応じてテンプレートを活用してBCPを作成することができます。(図―4参照)

図-4 BCP策定・運用、緊急時の発動についての全体像

(4)BCP策定企業の登録
中小企業庁では、「運用指針」に基づいて、BCPを策定した企業を中小企業庁HP「BCP策定企業の紹介」サイトhttp://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/bcpgl_case.html で、企業名等を掲載しています。この掲載によってBCPに対する意識が高く信頼性のある企業として評価を受けることが期待されますので、中小企業に登録を広く呼びかけています。

3. 中小企業診断士とBCPとのかかわり

(1)BCPに対する企業経営者等の関心は高い
 今回のセミナー会場では、最近における多発する地震等の被害発生や新型インフルエンザ感染のまん延さらには不況の長期化などの情勢も踏まえているせいか、セミナーに出席した中小企業経営者等(約100名)の方々はBCP策定の説明について真剣に聴講しており、BCPに対する関心はかなり高いものと思われました。

(2)BCPに関する中小企業支援施策
BCP関連の資金支援制度としては、災害などによる事業中断を最小限にとどめるためBCPを策定している中小企業に対する「防災施設整備融資制度(BCP融資)」(日本政策金融金庫)などをはじめとする各種支援制度があります。中小企業診断士は常にこうした最新の支援制度を把握しておく必要があると思われます。

(3)中小企業診断士の役割と期待されるもの
東京都は「災害復興街づくり支援機構」を構成する18士業団体(H21.3月時点)との協定を結んでいますが、その中で中小企業診断士の役割は「災害復興計画の作成支援業務を支援する」と定義されています。今後、企業の持続性を脅かす様々な災害等の脅威は増加するものと考えられ、中小企業経営者等のBCP策定への関心はますます高まるものと考えられます。

今回のセミナーを通じて感じたことは、中小企業診断士は中小企業がBCPを策定する際、専門家の立場でその策定及び運用維持改善のための支援・助言などの面でその活躍が大いに期待されるのではないかと考えられました。

参考資料
 「事業継続ガイドライン」(内閣府H17.8.1)
 「中小企業BCP策定運用指針」(中小企業庁H18.2.20)
 「中小企業BCPステップアップ・ガイド」(東京商工会議所H20.1月)
 「中小企業BCP(事業継続計画)ガイド」(中小企業庁H20.3月)
 「BCP策定のためのヒント~中小企業が緊急事態を生き抜くために~」
 (中小企業庁H21.3月)
 「中小企業診断士のためのBCP(事業継続計画)Q&A」
 (中小企業診断協会東京支部地域中小企業活性化支援部H21.3月)    (以上)

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