「海外進出情報-アジアで生産する」
第5回 インドネシア
- 進出先としてのインドネシア
戦後における日本企業のインドネシアへの進出の歴史は古く、1970年代の初めから始まっている。繊維関係の日米貿易摩擦の影響を受けて1976年には三菱レイヨンがアクリル繊維の紡績をインドネシアで始めているのが一例である。日本からの直接投資が停滞した時期もあったが、その後持ち直しチャイナ+ワンの流れにも乗って昨年は日本から見ると中国、タイ、シンガポールに次ぐ第4位の投資先になっている。
インドネシアの魅力の一つは中・インド・米に次ぐ世界第4位の人口である。前回に続いて人口の表を示す。
アジアの人口(2010年 単位:万人) 国名 インドネシア マレーシア タイ フィリピン ベトナム 人口 23,760 2,825 6,339 8,857 8,579 インドネシアにとって日本は次のように経済的に深い関係がある。
- 最大の貿易相手国(2010年の統計で日本への輸出が全体の16.3%で1位、日本からの輸入は12.5%で中国、シンガポールに次いで3位)。日本にとってインドネシアは石油・ 天然ガスなど重要なエネルギー供給国である。
- 直接投資:古くより日本からインドネシアへの直接投資は行われているが、現在では中国偏重リスクの回避(チャイナ+ワン)や、優秀で安価な労働力による一層のコスト削減の狙いがあり、上に述べたように日本から見ると第4位の投資先である。
- 最大のODA供与国:インドネシアにとって日本は最大の援助国であり、インドネシアは累計ベースで我が国ODAの最大の受取国である。(ODAホームページ)
- 日本・インドネシア経済連携協定(EPA):貿易及び投資の自由化及び円滑化、人の移動、エネルギー及び鉱物資源、知的財産、ビジネス環境の整備等の幅広い分野での協力について2国間で経済連携協定が締約され、2008年7月1日に発効した。これにより最終的には往復貿易額の92%の関税が撤廃される予定である。
- 国土・風土・政体・国民性
赤道をはさんで東西5150km、南北1771kmにわたって分布する主要な6島(ジャワ、バリ、スマトラ、カリマンタン、スラウェシ、パプア)、2大諸島(モルッカ諸島、テンガラ諸島)を含む18,110の島々からなる世界最大の島嶼国である。陸地の広さは約190万平方km(日本の5倍)、領海はおよそその4倍。このうち約6000島に世界第4位の人口約2.18億人の人が住む。島のいくつかに国境があり、カリマンタン島の3分の1はマレーシア領とブルネイ領、ティモール島の2分の1は東ティモール領、パプア島の2分の1はパプア・ニューギニア領となっている。気候は熱帯性気候で乾季と雨季があり、地域によって異なるが乾季は5~10月、雨季は11月~4月。雨季には午後になるとスコールのような大雨が降る。気温は丘陵地帯16℃、低地・沿岸地帯36℃、湿度は80%~90%といったところが典型的である。
人種はジャワ人(人口の45%)、ジャワ島西部に住むスンダ人(14%)、 マドゥラ島に住むマドゥラ人 (7.5%)、マレー人 (7.5%)、その他(26%)となっている。人口分布はジャワ島59%、スマトラ島21%、バリ島1.5%、その他18.5%で圧倒的にジャワ島に集中しているのが特徴である。インドネシアでは宗教選択の自由が掲げられており、国が認めた5つの宗教(イスラム教(人口の88%)、プロテスタント(6%)、カトリック(3%)、仏教(2%)、ヒンズー教(1%)が信仰されている。
政体は政体共和制(大統領責任内閣)であり、議会は一院制を取っている。
インドネシア投資調整庁(BKPM)によるとインドネシアの特徴として(1)親日国家、(2)自由な信仰、(3)温和な国民性、(4)豊富な若い労働力、(5)低退職率 を挙げている。 - インドネシアの歴史
紀元前3000年頃から中国南部から南への大移動が起こり、そこに住んでいたモンゴル系のマレー人が押し出されてマレー半島を南下、他地方の沿岸部からの人々も含めて徐々にインドネシアの島々へ移動してきた。5世紀頃からはいくつかの仏教王国やヒンドゥー教王国の興亡があった。8世紀半ば~9世紀半ばには遺跡で有名なボロブドゥールが建設され、1292年にはマルコ ポーロが訪れている。13世紀後半~16世紀にヒンドゥー王国のマジャパイト王国がインドネシア全域を支配下に置き貿易で繁栄したが、14世紀後半にはイスラム教改宗の嵐があり、イスラム教信者が90%に達した。16世紀に一時ポルトガルに支配されたが、1602年からはオランダが順次勢力を拡大して、20世紀半ばまでにはインドネシア領の大部分を植民地化した。太平洋戦争時には日本軍が侵攻・占領したが1945年に日本が降伏すると日本軍の武装解除などを任務として進駐してくるイギリス軍、再植民地化のためにて戻ってきたオランダ軍とインドネシア独立派との間で独立戦争が起こる。この時に日本軍の残存兵約3000人がインドネシア軍に加勢したと言われ、多くの戦死者を出した。結局は1949年にオランダはインドネシアの主権を認めることになったが、インドネシアの人たちが親日的なのは、このような経緯も大きく影響していると言える。戦後は独立派のスカルノが連邦共和国の初代大統領になり、1950年憲法により共和国に。その後、国連脱退などもあったが1968年にクーデターを鎮圧した軍司令官のスハルトが大統領になると国連に復帰し、親米路線を取った。また、スハルトはさまざまな大型プロジェクトを導入して「開発の父」と言われている。32年間の独裁政権ののち暴動などがあってスハルトが退陣すると、その後3代の政権を経て2004年からはユドヨノ大統領による長期政権が続いている。
- インドネシアの経済圏、工業団地、主な進出企業
インドネシアの特徴は、人も工業団地も「集中」していることである。ジャワ島は日本の3分の1ほどの面積に、1億人以上の人々が住んでおり、世界で最も人口密度の高い場所となっている。(スハルト政権時代に過疎地域への移民政策をとったが、かえって住民間の紛争の種になってしまった。)このため次の表に見るように工業団地も人の多いジャワ島に集中している。また、シンガポールに近いバタム島はシンガポールが衛星工業地として開発に力を入れており、ここにも工業団地が集中している。その中でも日本企業が進出している工業団地は限られており、ジャワ島に53箇所ある工業団地の内、殆どはジャカルタ首都圏のJakarta Industrial Estate Pulogadung とジャカルタに隣接する西ジャワ州の7つの工業団地、それにバタム島に13ある工業団地の内のBatamindo Industrial Parkの合計9つの工業団地に集中している。
地域 主な州 特色 工業
団地数進出済みの
主な企業ジャワ島 ・ジャカルタ首都特別州
・バンテン州
・西ジャワ州
・中部ジャワ州- ジャカルタ地域を担当しているタンジュンプリオク港がインドネシア最大の港でフルコンテナ施設を有する
53 カヤバ工業、栗田工業、大日本インキ、大日本印刷、ヤマハ、富士電機、三菱電機、旭硝子、住友特殊金属、東ソ-、三菱化成、日立製作所、コマツ、日本ヒューム、花王、三菱マテリアル、日本電気硝子、日清食品、オルガノ、旭硝子、ソニー、日本電装、東洋インク、日鍛バルブ、トヨタ、パラマウントベッド、フクスケ、NSK、三洋電機、パナソニック電工、オムロン、日本電気 、グンゼ、日本ケミコン、セイコーエプソン、味の素カルピス、アイシン精機、ヒロセ電機、鳴海製陶、東芝、日本ガイシ、ダイハツ工業、岩谷産業、東洋紡、ユニ・チャーム、信越ポリマー、シャープ、いすゞ、明治製菓、河合楽器、ブリジストン、JVC、日本電池、三井化学、カネボウ、本田技研工業、住友ゴム、森永乳業、新日本製鐵、小糸製作所、小野田セメント BBK ・バタム島
・ビンタン島
・カリムン島- バタム島はシンガポールから海上20kmのところにあり、シンガポールが衛星工業地として開発に力を入れている
- シンガポールの6割ほどの面積を持つ
13 パナソニック電池工業、フジテック、日本サーボ、京セラ、パナソニック電子、帝国通信、沖電気、三洋精密、セイコーエプソン、信越化学、ソニーケミカル、住友電装、ティアック、東芝テック、東洋通信機、横河電機、フォスター、シマノ、昭和電工 カリマンタン ・東カリマンタン州 - 旧ボルネオ
2 – スマトラ島 ・北スマトラ州 - 北スマトラ州の州都はメダンで、周辺にブラワン港がある
5 住友商事(食品加工) スラウェシ島 ・南スラウェシ州 - 植民地時代のセレベス島
4 – 工業団地の数は日本アセアンセンターのホームページに記載された数である。
- ジャカルタ地域を担当しているタンジュンプリオク港がインドネシア最大の港でフルコンテナ施設を有する
- 賃金その他
ジャカルタ 上海 深セン 大連 備考 賃金
(USドル)ワーカー 209 439 317 316 米ドル換算は2011年8月平均レートによる エンジニア 414 745 619 540 課長クラス 995 1,372 1,208 1,012 賞与(ヶ月) 2.42 2.02 1.52 1.87 名目賃金上昇率 10.7% 9.3% 8.0% 15.1% インドネシアも中国の諸都市と比較した。JETROの資料が更新されており、比較する中国諸都市も賃金があがっているが、ワーカーの賃金は中国諸都市の半分から2/3程度以下、エンジニアや課長クラス7~8割といったところである。
- 外資に対する優遇処置
進出先として特に関連の深そうな保税区内、自由貿易地域・自由港、パイオニア産業については次のような優遇処置がある。- 保税区内の優遇措置 原材料や資本財などの輸入関税を免除され、その他輸入にかかる諸税も非徴収。保税地区で生産された製品を前年の輸出実績価額の最高25%まで、正規の輸入手続を踏んだ上で国内向けに販売可能。さらに製品を国内の保税区域内の他企業に全量供給することが可能(付加価値税などが免除)。保税区域内の企業から区域外の下請工場に加工に出す場合、出入りとも付加価値税が免除される。
- 自由貿易地域・自由港の優遇処置 自由貿易地域(バタム島、ビンタン島、カリムン島)および自由港(アチェ特別州のサバン島地域―自由貿易地域でもある。)では、輸入関税、付加価値税、その他輸入にかかる諸税が免除される。
- パイオニア産業に対する優遇処置 パイオニア産業(基礎金属、石油ガス採掘および/あるいは石油ガスを源とする有機基礎化学、機械、再生エネルギー、通信機器の5産業)に1兆ルピア(2012年9月レートで100億円)以上の投資を行う企業に、商業生産開始から最短5年、最長10年、法人税を免除。免除期間の後2年間、法人税を50%軽減。
- その他、次の条件をひとつでも満たす事業を奨励する目的で各種便宜を供与すると定められている。
- 多くの労働者を吸収
- 高い優先分野
- インフラ開発
- 技術移転
- 先駆的な事業
- 辺境地・後進地・境界地域への投資
- 研究開発、革新活動
次回はフィリピンを取り上げる。
【参考資料】
- 外務省ホームページ
- ODAホームページ
- JETROホームページ
- 日本アセアンセンターホームページ
- 生産適地比較(インドネシア編)国際化コンサルティング研究会資料 谷口 糺(2006年)