個性ある元気な企業の経営をご紹介する「輝け!オンリーワン企業」
今回はライフネット生命保険株式会社(以下、ライフネット生命)をご紹介する。
戦後初の独立系生命保険会社として、ライフネット生命は、2008年5月18日に開業した。その1か月前(4月18日)が出口社長の60歳の誕生日だったこともあり、「還暦ベンチャー」とも言われている。
「子育て世代のために保険料を半額にしたい!」という熱い思いがネット生命保険というビジネスモデルを生み出し、開業から3年経過した2011年9月29日、保有契約件数は早くも9万件を突破した。また2012年度版 オリコン顧客満足度ランキング 医療保険部門では「保険料の満足度」で 2年連続第1位を獲得している。既存の生保があまたある中、なぜこれだけ顧客の支持を得られたのか、オンリーワンの秘訣について、2011年10月6日、出口社長からお話を伺った。
-還暦で起業、それも戦後初めてとなる独立系の生命保険会社を立ち上げようと思われた理由は何だったのでしょうか。
直接のきっかけは谷家さん(あすかアセットのCEO)から、誘われたからですが、それ以前から、日本の生命保険を正しい道に戻したいという思いが強くありました。1995年に保険業法が抜本的に改正されたにもかかわらず、既存の生保は「1940年体制」に固執し、顧客よりも社内のセールス部隊の維持に目を向け、法が定めた新しい道に踏み出さなかったのです。
-何かに絞り込めば、別な何かを犠牲にしなければならない…中小企業の経営戦略を策定する上で大事なところです。ライフネット生命でも拘った部分、切り捨てた部分があると思いますが、そのあたりを教えてください。
経営戦略ではトレードオフを踏まえた戦略立案が重要です。そもそも生命保険は万一のときの保障ですから、現金1億円をお持ちの方は生命保険に入る必要はないのです。私たちは生命保険を本当に必要とする20代、30代の子育て世代の死亡保険料を半額にしたいと考えました。そのため営業経費をできるだけ抑えようと、実際の店舗を持たず、ネットによるパソコンとケータイからの申し込みだけで受け付けることにしたのです。そのように絞り込みますと、当然ながら、パソコン、ケータイが使えないご年配の方は申し込めません。お叱りのお電話もいただきましたが、総ての方に対応していては保険料半額は実現できませんでした。どんな仕事も断捨離が大事です。
-ライフネット生命も設立当初は無名な存在だったと思います。知名度を上げるために、どのような努力をされましたか。
認知度を高めるために取った主な戦術は、空中戦、地上戦、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の3つです。空中戦とは本を書き、それで一般の人々にライフネット生命を認知してもらうことです。私、岩瀬(副社長)二人合わせて10冊近く、本を書きました。地上戦とは、ミニ集会のことです。10人以上集まる集会には呼ばれればどこへでも行くと決め、これも私と岩瀬で年間200回の講演をこなしています。空中戦と地上戦をつなぐものがSNSです。社長、副社長が両方、Twitterでつぶやく会社はそうはないと思います。
-保険料を半額にする、保険金の不払いをゼロにしたい、比較情報を発展させたいという3つのビジョンの達成状況はいかがでしょうか。
死亡保険料を半額にする、保険金の不払いをゼロにしたい、の2つは概ね達成できました。
例えば2008年の契約者アンケートによりますと、平均月額保険料は保険の見直し前で14,764円、ライフネット生命に変更後は7,890円。削減率は47%でした。また、保険金の不払い0を担保する仕組みとしては、システムチェック、支払い専門チーム、リスク管理部のトリプルチェックシステムを構築しました。
比較情報については、我が国の生命保険会社全47社中、約款、保険料率表を共に開示している会社はわずか7社しかなく、業界全体で取り組む必要があると思っています。
-マニフェストがある会社は珍しいと思いますが、なぜマニフェストを作ろうと思われたのですか。
ライフネット生命のマニフェストは
第1章 私たちの行動指針
第2章 生命保険を、もっと、わかりやすく
第3章 生命保険料を安くする
第4章 生命保険を、もっと、手軽で便利に
の4章立てで、それぞれの章の下に、具体的な行動指針を細かく書きました。いわゆる経営理念は言葉が短く抽象的である場合が多く、それでは、社員は具体的にどう行動したら良いのか分かりません。大事なことこそ細かく書いておくべきだと考えました。
-ライフネット生命がオンリーワン企業として成長されたのは顧客の支持があったればこそと思います。顧客は貴社のどんなところを評価されたのでしょうか。
私たちの保険料を半分にして赤ちゃんを産んで欲しいという起業の理念、そして、私たちがマニフェストを真っ正直に実践していることに対して、共感いただけたからではないかと思います。
-業界初となる本格的な就業不能保険「働く人への保険」をライフネット生命で開発された背景を教えてください。
キャリアウーマンの女性のお客様からの「ライフネット生命の考えに共感して死亡保険に入ったが、1人暮らしなのでお金を残す必要はなかった。何が不安かと考えたら長患いしたときに面倒を見てくれる人がいないこと。何でそんな保険がないのですか?」という問いかけがきっかけです。調べてみますと、日本で一番多い世帯は単身世帯です。諸外国では「ディサビリティ(就業不能)」はメインの商品でした。また日本で生活保護になる理由で一番多いものは配偶者の傷病です。こうしたことから潜在ニーズは高いと考え、商品開発しました。21世紀にふさわしいレバレッジの利いた商品と自負しております。
-今回の東日本大震災で被災された方々にはどのようなご対応をされたのでしょうか。
阪神大震災の教訓をしっかり勉強して1ヶ月は現地に行きませんでした。震災後すぐは自衛隊や医師の出番で、そういうときに保険会社が行ってもじゃまになるだけです。1カ月後、本社社員延べ10人ほどが現地に行き、効率的な連絡方法を考え、1ヶ月で安否確認を100%完了させました。
加えて、保険金・給付金のお支払いで、約款に定めている地震等による特約条項を適用しないなど、各種特別取扱を他社に先駆けて実施しました。
-ライフネット生命の将来構想につきまして、教えてください。100年後に、マニフェストの4項目で、世界一の保険会社を目指します。そうすれば量(保険契約件数)は自然とついてきます。
※右のグラフをクリックするとライフネット生命のサイトにて大きなグラフをご確認いただけます
-厳しい環境の中で企業経営を続けておられる中小企業の経営者にアドバイスをお願いします。
お伝えしたいことは三点あります。
第一に20世紀の高度成長期が常態で、今の不況が異常と考えるのではなく、高度成長期はうまく行き過ぎた、今が常態なんだと現状認識を180度改めることです。
第二に政府をあてにしてはいけません。高度成長期は税収が一杯あったから手厚い保護ができたのです。
第三に人と違うことを考えましょう。同じことをしていては価格競争の消耗戦に巻き込まれるだけです。
-趣味は海外旅行と読書とお聞きしておりますが、最近行かれて良かった国、また最近読まれておすすめの本がありましたら教えてください。
日本は東アジアの中で生きていかなければなりません。今発展している中国、インド、ベトナム、その中でご自身の商売に関係した国に行かれたらどうでしょうか。市場に行って、どんなものを食べているのか、本屋に行ってどんな本が売れているのか、街中で人を見て、痩せているのか太っているのか、実際に足を運んで自分の目で見ることが大事です。
おすすめの本としては以下の3冊を上げておきます。
『自分のアタマで考えよう』 著者:ちきりん
『生物学的文明論』 著者:本川 達雄
『なぜ世界は不況に陥ったのか』 著者:池尾 和人、池田 信夫
このインタビューにご興味を抱かれた方は、是非、出口社長の著書『直球勝負の会社』をご一読されたらと思う。更に多くの気づきを得るであろう。
私が一番感銘を受けたのは、「生命保険料を半額にする」という高い志である。ネットビジネスであれば、実店舗がない分、コストは当然下がる。下がったコストに一定の利益を載せても同業の販売価格の2,3割引にはなるだろう。それでもそこそこ成功したかもしれない。しかしライフネット生命は初めに生命保険料半額を打ち出し、そこから、コストを逆算していったのである。そうした高い志が顧客の共感を呼んでいるのだと思う。
インタビュアー:小野 靖
1956年横浜生まれ。2002年中小企業診断士登録。東京支部城西支会所属。2004年、城西支会の研究会として、ベンチャーファイナンス研究会(VF研)を立ち上げ、設立以来リーダーを務める。2010年1月長年勤めた大手VCを退職し、1年弱の充電期間後、2011年1月より中小企業診断士として本格的に活動開始。資金調達、ビジネスマッチングを専門とする。JCGでは、理事、事業部副部長として主にセミナー活動を担当している。