経営支援最前線 会員コラム

第4回「マレーシア」

「海外進出情報-アジアで生産する」
第4回 マレーシア

  1. 進出先としてのマレーシア
    東アジアの経済発展は雁行型と呼ばれ、独自の急展開を見せる中国を除くと、日本を先頭にNIESからASEAN諸国へと波及してきた。ASEAN諸国の中ではタイ、マレーシアが先行し、最近はベトナム、インドネシアがそれに続く形であるが、先行したはずのマレーシアが、同じく先行したタイに比べると直接投資先として影が薄くなっているように思われる。両国に対する直接投資実績は第1回に示したように次のようになっている。
    直接投資実績(JETRO)(金額単位:百万US$)
     国名  2005  2006  2007  2008  2009  2010  合計
     マレーシア 524 2,941 325 591 616 1,058 6,055
    タイ  2,125  1,984  2,608  2,016  1,632  2,248  12,613

    (1)英語が通用する、(2)産業基盤が積み上がってきている、(3)気質は穏やかで優しく親切等、の利点があるのに直接投資に飽和感があるのは偏に人口が少ないことによる。人口が10億人を超える中国とインドを除いた諸国を比較しても下表のように人口が非常に少ないことがわかる。

    アジアの人口(2010年 単位:万人)
     国名  マレーシア  タイ  インドネシア  フィリピン  ベトナム
     人口  2,825  6,339  23,760  8,857  8,579

    また、ボルネオ北西部(サバ州、サラワク州で国土の6割を占める)や半島部東海岸が工業生産に向かないなど工業生産に適した国土面積が狭いことも大きな理由となっている。

  2. 国土・風土・政体・国民性
    国土はマレー半島の半島部とボルネオ北西部に分けられる。面積は日本の0.87倍で 半島部は中央を南北に走る山脈と沿岸平野からなる。ボルネオ(カリマンタン島)のサラワク、サバ両州は標高1000m程度の山岳で覆われ沿岸平野は狭い。マレー半島は高温多湿の熱帯モンスーン気候。北東モンスーンの吹く10~2月に多量の雨が降るが中央山脈で隔てられた東海岸と西海岸で気象状況が異なり特に東海岸がモンスーンの影響を強く受ける。南西モンスーンの吹く6~9月は比較的雨量は少なくなる。カリマンタン島は熱帯雨林気候である。
    行政区はマレー半島の南部とボルネオ北西部のサラワク、サバ州からなる連邦国家13州と3つの連邦特別自治区に分かれている。立憲共和制、議院内閣制(2院制)で元首は国王だが、政治的実権は殆んどない。ペナン、マラッカ(ムラカ)、サバ、サラワク州以外の州にサルタンがおり、5年ごとに行われる会議で国王を選出する。(持ち回り的制度である。)
    人種としてはマレー系65.5% 中国系25.6% インド系7.5%、その他となっており、半島側に8割の人が住んでいる。宗教はイスラム教60% 仏教19% キリスト教9% ヒンドゥー教6%。公用語はマレー語だが英国の植民地であったため英語もよく通用する。
    国民性は 穏やか、親切で、個人間の調和やバランスの取れた関係を大切にする。一方、個人主義的であまり無理をしない。
  3. マレーシアの歴史
    昔から黄金・香料などの交易の中継地点として栄え、南インド人がもたらしたヒンドゥー教の時代、9世紀までに全マレーシア半島を征服した仏教王国による仏教の時代を経て、海上貿易を握っていたペルシャ、アラブ、インドからのイスラム教徒の影響で13世紀中頃から次第にイスラム化、15世紀後半には完全にイスラム化した。
    これに先立ち1405年にはマラッカ(ムラカ)王国の王が中国・明からマラッカ国王の称号を受け、それまでのタイ(アユタヤ王朝)の朝貢国の地位から近隣諸国と対等の国になる。このようにして東南アジアにおける海上貿易とイスラム教の中心地になっていった。
    16世紀に入るとヨーロッパからの侵略を受け、1511年にポルトガルがマラッカを占領、1641年には代わってオランダ、1787年以降はイギリスが植民地化、イギリスは錫が発見されると、半島内陸部も植民地化し、ゴム(南米から移植)と錫産業を発展させるために多数のインド人・中国人を労働力として移住させた。これによって人種構成が複雑化した。 1942年には日本が占領、殖民地支配の一掃によるナショナリズムが高まったが中国系住民が反日分子という名目で虐殺されたことに対する反日感情が生まれている。
    戦後は1963年にシンガポール、サバ、サラワクを加えてマレーシア連邦が成立したがマレー人と中国系との利害対立により2年後にはシンガポールが分離独立して現在のマレーシアの形になった。
  4. 戦後マレーシア経済に影響を与えた主な政策
    1. ブミプトラ (土地の子)政策:1971年にラザク首相が富の不均衡(都市に住む中国系、インド系の人々が経済の実権を握り、大多数のマレー人が農村部で貧しい暮らしをしている)を無くすため、「貧困の撲滅と人種間の経済格差の縮小」を掲げた新経済政策。マレー人を優遇することでマレー人の教育と経済状況の向上を図り、国全体を引き上げていく。中国系、インド系に対する逆差別としての問題をはらんでいる。
    2. ルックイースト政策:1981年にマハティール首相が日本の成功モデルに学ぶべく提唱。留学生や研修生を日本に派遣(1982年から)し、最新技術や勤労倫理などを学び、自国の発展に役立てようとするもの。1980年代の半ばからは主に日本から多くの投資や企業進出を受け、急速に工業化を進めた。
    3. Wawasan(ビジョンの意味)2020政策:1992年にマハティール首相が発表。2020年までにマレーシアを先進国レベルに高める。主な事業として次のようなものがある。
      1. マルチ・メディア・スーパー・コリドー:それまでマレーシア経済を牽引してきた製造業と合わせて、IT産業を中心とするサービス・知識集約型産業を育成する。
      2. プトラジャヤ:首都クアラルンプール(KLと略される。)中心街から車で約40分(25km)のところに首都機能を移転する計画。1999年に首相官邸が移転した。
      3. ペトロナス・ツイン・タワー:KLの近代化の象徴としてKL東部のビジネス街に立つ高さ425mのオフィスビル。1998年完成。2003年までの間世界で最も高いビルだった。(ペトロナスは国営の石油会社)
  5. 経済における日本との関係マレーシアにとって日本は次のように経済的に深い関係がある。(2011年:マレーシア統計局、マレーシア工業開発庁)
    1. 日本への輸出: シンガポール、中国に続く第3位(2010年:総輸出額の10.4% LNG等の鉱物性燃料、電器機械、木材等)
    2. 日本からの輸入:第1位(2010年:総輸入額の12.6% 電気機器、一般機械類、自動車、鉄鋼等)、輸入先として中国、シンガポールが僅差で続く。
    3. 日本からの直接投資:米国に次ぐ第2位(総直接投資額の13.9% 件数は61件でシンガポールに次ぐ第2位)
      なお、同国の主な産業は製造業(電気機器)、農林業(天然ゴム、パーム油、木材)及び鉱業(錫、原油、LNG)である。
  6. マレーシアの経済圏、工業団地、主な進出企業
    マレーシアの工業団地は半島部西海岸、特にKL周辺のセランゴール州やマラッカ州を中心に投資が集中してきた。表を見ると分かるようにセランゴール州の工業団地数は92カ所で全体の3割を占めるという集中ぶりである。これに対し政府は他地域の開発に乗り出しており、シンガポールに隣接するジョホール州南部の開発計画(イスカンダル開発地域:IDR)、続いて半島北部のペルリス州・ケダ州・ペナン州・ペラ州北部の北部回廊経済地域(NCER)、さらに最近、半島東海岸のトレンガヌ州、クランタン州、パハン州を中心とした東部回廊経済地域(ECER)の開発を打ち出した。
     地域 主な州  特色 工業
    団地数
    進出済みの
    主な企業
    先行経済圏 ・セランゴール
    ・ネグリセンビラン
    ・マラッカ
    • 首都KLに隣接
    • セランゴール州にはクラン港がある
    134
    (内セランゴール州92)
    タナシン、パナソニック、明電舎、ホンダ、日立マクセル、コニカミノルタオプト、旭硝子、アルプス電気、コパル、市光工業、住友軽金属、TDK、岩崎通信機、ユタカ電機、TOTO、日本軽金属、カシオ、古河電工、関西ペイント、ヤマハ発動機、ダイハツ、日本ビクター、カルソニック、東洋インキ、NEC、カヤバ工業、三協精機、東芝、住友電工、日本パーカライジング、日本板硝子、栗田工業、フジクラ、富士通、トヨタ、キヤノン、ブリジストン、富士通、DNI、三井金属、日本酸素、新日鉄、三菱自動車、信越化学、ヒロセ電機、日立製作所、ホシデン、ソニー、大正製薬、セイコーエプソン、オムロン、NSK
    イスカンダル開発地域 ・ジョホール
    • ジョホール海峡を介してシンガポールに隣接
    • ジョホール港、タンジュン・プレパス港がある
     23 アイダ、船井電機、三菱樹脂、日立化成、パナソニック、ライオン、住友ベークライト、東洋ゴム、パイオニア、日立電線、日立製作所、三菱電機、高周波熱錬、富士通、シャープ、アイワ、ブラザー、住友電工、セイコーインスツルメント
    北部回廊経済地域 ・ペルリス
    ・ケダ
    ・ペナン
    ・ペラ
    • 北西部
    • ペナンは良港で英・東インド会社の拠点となった
    • ペナン島は対岸のバターワース地区と東洋屈指の長大橋で結ばれている
     76 ミネベア、本田技研、シャープ、住友ゴム、東洋紡、NEC、ユアサ、マックス、オンキョー、富士電機、HOYA、昭和電工、キヤノン電子、三洋電気、不二 サッシ、フマキラー、スズキ、日立化成、日立金属、カネボウ、日本ゼオン、明星食品、東レ、ソニー、フジクラ、リョービ、アドバンテスト、クラリオン、三 和シャッター、マブチモーター、東洋紡、三菱マテリアル
    東部回廊経済地域 ・トレンガヌ
    ・ケランタン
    ・パハン
    • 東海岸
    • モンスーン地帯
    • トレンガヌ州にはクアンタン港がある
    • ケランタン州は主に山地
     41 矢崎総業
    ボルネオ(カリマンタン島)北西部 ・サラワク
    ・サバ
    • 標高1000m程度の山岳で覆われ沿岸平野は狭い
    • サラワク州にビンツル港がある
     22  日本ペイント、大建工業

    工業団地の数は日本アセアンセンターのホームページに記載された数である。

  7. 賃金その他
    KL 上海 深セン 大連 備考
    賃金
    (USドル)
    ワーカー 344 311 235 245 米ドル換算は2010年8月平均レートによる
    エンジニア 973 609 530 417
    課長クラス  1,926  1,096  1,046  762
    賞与(ヶ月) 2.14 1.96  1.28  1.97
    名目賃金上昇率 5.37% 8.3% 7.5% 13.0%

    マレーシアについても中国の諸都市と比較したが国内でも高いKLとは言え特にエンジニアや課長クラスが中国よりかなり高くなっていることがわかる。

  8. 外資に対する優遇処置
    高度な製品を製造する企業にパイオニアステータスが認められるが、ハイテク企業にはさらなる優遇処置が認められる。また低開発地域(東海岸投資奨励地域やボルネオ)に立地する場合にも特別な優遇処置が与えられる。
    1. パイオニアステータスを認められた会社は、法定所得の30%についてのみ課税(5年間)
      さらに低開発地域に立地する場合は法的所得の15%についてのみ課税(5年間)
    2. ハイテク企業に対しては5年間の法定所得が全額免除となる。
    3. パイオニアステータスの代わりに投資税額控除(ITA)を申請することも可能である。
      これは5年以内に生じた資本支出(工場、プラント、機械、その他設備への支出)に対して60%の控除が受けられる。更に控除は、賦課年度の法定所得の70%を相殺するのに利用できる。未利用の控除は、その全額が利用されるまで繰り延べることができる。
      なお、指定された場所に立地する企業は、資本支出に対して80%の控除が受けられる。この控除枠は毎年の賦課年度の法定所得の85%を相殺するのに利用できる。
      また、低開発地域に立地する場合は100%の控除と100%の相殺となる。
      【註】
      • パイオニアステータスの対象はデジタルテレビ、デジタルオーディオ・ビデオ、電子コンポーネント(クオーツ、モータ等)、記録メディア(コンパクトディスク等)、ウエハー、自転車、プラスティック製品、カメラ、レンズ、双眼鏡等
      • ハイテク対象はコンピュータ、周辺機器、IC、プリンターヘッド、医療機器、ロボット、CNC工作機械、自動車部品(エンジン等)、バイオテクノロジー、レーザー応用機器、光ファイバー通信機器、燃料電池、太陽電池等
      • 低開発地域(投資奨励地域)はペルリス州、サバ州、サラワク州、クランタン州、トレンガヌ州、パハン州、ジョホール州のメルシン地区
  9. イスラム教について
    マレー系の人たちは殆どがイスラム教徒である。イスラム教では夜明け、正午過ぎ、日没前、日没後、就寝前の1日5回の礼拝と、金曜日のモスクにおける礼拝があり、メッカの方角に向かって礼拝する。1日5回の礼拝のうち2~3回は就業時間中に当たることが多い。このため多くの進出企業は礼拝所(礼拝室)を設けており、交代制で礼拝を認めている。また、男子従業員が近隣のモスクへ礼拝に行けるよう金曜日は昼の休憩時間を2時間にしているところもある。最近「ノープレイ(礼拝禁止)」をうたっている企業もあるようだが、現地の宗教や風習を尊重しない態度は企業進出にあたって厳に慎むべきであろう。
    また、ラマダンがありイスラム暦の第9月の30日間、黎明から日没までの間一切の口に入るものを絶つ。断食中は音楽を鳴らすことも禁止である。
    アルコール類も禁止であるが、外国人の場合は飲酒も許される。ただし、マレー系の人たちの面前での飲酒は慎みたいものである。

    次回はインドネシアを取り上げる予定である。

【参考資料】

  • 外務省ホームページ
  • JETROホームページ
  • 日本アセアンセンターホームページ
  • 生産適地比較(マレーシア編)国際化コンサルティング研究会資料 谷口 糺(2007年)

 

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