経営支援最前線(会員コラム)

第3回「タイ」

「海外進出情報-アジアで生産する」

第3回 タイ

  1. 進出先としてのタイの魅力
    2011年10月初めよりタイ中部を中心に洪水が発生し、被害が広範囲に広がった。日系企業が多く入居するアユタヤ県を中心とした工業団地が冠水し、工場が操業停止となるなど大きな影響が出たのはご存じの通りである。JETROの調査では進出日系企業のうち2割が直接被害を受け、間接被害まで含めると8割の企業に影響があったという。それにもかかわらず1月に実施した直接間接被害95社のアンケートでは78%が同じ場所で事業を継続、16%は「タイ国内の他の場所」で操業を継続と回答し、「撤退」を選択した企業はない。
    各社がそれほどまでにタイに固執する理由はなんであろうか。もちろんインラック首相が表明している洪水対策(ダムの貯留能力増強、植林による保水能力の向上、河川の浚渫、流水のコントロール等)に期待する面もあるが、それ以上に自動車、電子電機産業を中心に裾野産業が充実していることがあげられる。つまり、労働力の安さだけでなく進出日系企業を含めた部品供給網が整備されていることが大きい。

    タイ投資の有望理由についてバンコク日本人商工会議所が実施したアンケート結果を次に示す。
    1位:現地マーケットの成長性
    2位:安価な労働力
    3位:組立メーカーへの供給拠点
    4位:第3国への輸出拠点
    5位:整備されたインフラ

  2. 国土・風土・政体・国民性
    国土面積は日本の約1.4倍で、日本の約半分の6500万人が住む。象の形のような国土の口の部分に首都バンコク(人口687万人)がある。熱帯性気候で乾期(11月~5月前半)と雨期(5月後半~10月)に分かれ、特に3月~5月前半は気温が40℃を超えることも多い。民族的にはタイ族75%、華人14%、その他11%となっている。国民の95%が仏教徒で信仰が厚い。政体は立憲君主制であり、元首はプミポン国王(ラーマ9世)で国民の崇敬を集めている。ただし、政治の実権は首相にある。2006年以降当時の政権に対しタクシン元首相を支持する勢力がデモを繰り返していたがアピシット前首相が下院を解散、2011年7月の総選挙の結果、タクシン元首相支持派のタイ貢献党が第1党となり、タクシン元首相の娘のインラック女史が首相の座に就いた。これによって政局は安定している。

    タイは微笑みの国と言われるだけに穏やかな国民性を持っている。ただし、デモの際に見られるように南国特有の熱情性も併せ持つ。また、中世以降再三にわたるビルマ(ミャンマー)の攻撃を退け、19世紀後半からの仏・英による植民地化の波、第2次世界大戦の時に日本に協力したことによる連合国からの追求を巧みに切り抜けるなど、独立を維持してきたことに由来する誇り高い民族でもある。「マイペンライ」(気にしない)という言葉に代表されるようにくよくよしない気質は特質でもあるが、逆に無責任という面もある。

    日本に対してはともに明治維新期の外国の侵略を切り抜けたこと(時のチュラロンコーン大王は近代化を成し遂げた君主として明治天皇と並び称されている。)第2次世界大戦時の日泰同盟などの歴史もあり、全般的に親日的である。
  3. タイの歴史
    タイ王国の基礎は13世紀のスコータイ王朝により築かれ、その後アユタヤ王朝(14~18世紀)、トンブリー王朝(1代、1767~1782)を経て、現在のチャックリー王朝(1782~)に至る。有名な山田長政は16世紀前半にアユタヤ朝の高官に上り詰めている。
    19世紀にはモンクット王(ラーマ4世、映画「王様と私」の主人公)やその後を継いだチュラロンコーン王(ラーマ5世)によって近代化がすすめられた。1932年の立憲革命により絶対王政から立憲君主制に変わり、1939年には国名をシャムからタイに変更、国名を民族名と一致させた。

    日本とは明治20年(1887年)に国交を樹立、明治31年(1898年)に修交通商航海条約を締結した。昭和16年(1941年)太平洋戦争開戦直後に日泰同盟が締結されたのは上述の通りである。

    戦後は1961年に第1次経済開発計画を開始、1967年のASEAN成立時からの参加国であるが、70 年代に入ってから輸出指向型産業育成に注力、ASEAN諸国の中で最も自由化政策を進めたため1980年代後半から急速な経済発展を遂げた。特に日本及び欧米の自動車・部品メーカーが集中し、「東洋のデトロイト」と呼ばれている。日本の自動車メーカーではトヨタ、いすず、ホンダ、日産、三菱、マツダが進出している。

    2010年1月にはASEANと中国とのFTAが発効した。タイはもともとASEANに部品を供給するハブとしての機能を果たしていたが、このFTAによって18億人という大きな市場を対象とすることになった。
  4. 経済における日本との関係
    1. 日本への輸出:中国に次ぐ僅差の第2位(2010年:天然ゴムシート、シートベルト、でんぷん類など)
    2. 日本からの輸入:ダントツの第1位(2010年:鉄鋼、半導体、自動車部品、原動機、非鉄金属など)
    3. 日本からの直接投資:ダントツの第1位(2010年)
    4. 日本・タイ経済連携協定(EPA):2007年11月1日に発効、最終的には日本からタイへの輸出貿易額(2004年)の約97%、タイから日本への輸出貿易額(2004年)の約92%の関税が撤廃される予定
  5. タイの経済圏、工業団地、主な進出企業
    それぞれの経済圏の特徴を表にして示す。各経済圏が日本一国並以上の人口を有していることに注目されたい。
    表1 タイ各経済圏の特徴
     地域 主な
    県市
     特色
     工業団地数  主な日系進出企業
     北部 チェンマイ
    チェンライ
    スコータイ
    ランプーン
    • ミャンマー、ラオスと国境を接する
    • 山岳地帯があり少数民族も住む
    • チーク材、バナナ、コメ、綿花等を産する
    4 日本カーバイド、フジクラ、村田製作所、並木精密宝石、ヤマハ、新日本無線
     東北部 ウドンタニ
    コンケン
    ナコンラチャシマ
    • ラオス、カンボジアと国境を接する
    • 山岳地帯や台地
    • 稲作が盛ん
    4 日本ビクター、西川ゴム
     中部 バンコク
    アユタヤ
    パトムターニーチョンブリ
    • 首都バンコクを含む地帯
    • 穀倉地帯であり、工場地帯でもある
    • 塩田がある
    • 宝石、フルーツも産する
    • アジア最大のスワンナプーム国際空港や、レムチャバン港がある
    62 ホンダ、三菱電機、マツダ、いすず、三菱重工、トヨタ、リコー、明治製菓、ヤンマー、ヤマハ、小糸製作所、ユニチャーム、神戸製鋼所、住友電気、富士通、日本ビクター、パナソニック、セイコー、東芝、帝人、味の素、キヤノン、東レ、日立、ミネベア、日本電産、ニコン、オムロン、フジクラ、TDK、ノリタケ、TOTO、マツダ、関西ペイント、小松製作所、日本軽金属、デンソー、チッソ、IHI、花王、日本ペイント、NSK、ソニー、旭硝子、日産自動車、ダイキン、ブリジストン、ニチレイ、王子製紙
     南部 プーケット
    ソンクラ
    パッタニー
    • 西はアンダマン海、東はタイランド湾に臨む
    • 森林や草原もあり、プーケットやサムイ諸島は観光地である。南はマレーシアと国境を接し、イスラム教徒が多い
    • 独立運動が行われ外務省の海外安全ホームページでは南部4県はレベル3(渡航の延期を勧める)となっている
    3

    工業団地の数は日本アセアンセンターのホームページに記載された数である。
    中部地区に工業団地が集中しているのがわかるが、中でも首都バンコク(7)、チャオプラヤ河を遡ったアユタヤ県(7)、サラブリ県(5)、レムチャバン港のあるチョンブリ県(8)、その南でタイランド湾に面したラヨン県(15)などに工業団地が多い。(数字は工業団地数)

  6. 賃金その他
    バンコクの賃金等を中国各地と比較する。

    表2 バンコク-中国各都市賃金比較 (JETRO資料 2010年データ、単位US$)
    地域名 バンコク 上海 深セン 大連 備考
    ワーカー
    (一般職)
    263 311 235 245 米ドル換算は2010年8月平均レートによる
    エンジニア
    (中堅技術者)
    588 609 530 417
    中間管理職
    (課長クラス)
    1,423 1,096 1,046 762
    賞与(カ月) 2.71 1.96 1.28 1.97
    名目賃金上昇率 2.5% 8.3% 7.5% 13.0%

    タイ国内で最も賃金水準の高いバンコクと比較しているせいもあるが、中国各地と比較して必ずしも賃金が安いとは言えない。
    ただし、名目賃金上昇率が中国各地に比べて落ち着いているのは注目点である。

  7. 外資に対する優遇処置
    タイ国内を3つの地域に分け、工場の立地に応じた優遇措置が与えられる。
    第1地域(バンコク等)ではBOI(投資委員会)が認可する機械の輸入関税50%減免。工業団地等に立地する場合3年間法人税免除、輸出のために使用された原材料・資材輸入関税1年間免除。第2地域(アユタヤ、チョンブリ、ラヨン等)は条件により優遇期間が延長される。第3地域(チェンマイ等)にはさらなる優遇策が講じられている。

    タイの経済地域

    タイの経済地域

    次回はマレーシアを取り上げる予定である。

【参考資料】

    • 外務省ホームページ
    • JETROホームページ
    • 日本アセアンセンターホームページ
    • 生産適地比較(タイ編)国際化コンサルティング研究会資料 谷口 糺(2010年11月)

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