経営支援最前線(会員コラム)

第1回「中小企業の海外進出先」

「海外進出情報-アジアで生産する」
第1回 中小企業の海外進出先

  1. はじめに
    今年の夏、ある中小企業の社長とお話しする機会があった。その社長から「私たちも海外へ出ていかなければならないのでしょうか。」と聞かれた。社長以下4人で自動旋盤加工を主体にした機械加工業である。私は「御社の場合、親企業から海外進出を要請されているわけではないので海外での販路が確保されていないし、親企業からの支援も期待できません。また、自動加工なので労務費の安さがあまりコスト低減効果を生まないので、今は海外進出を考える時期ではないで しょう。」と答えた。このやり取りはそこまでであったが、このような小さい企業にまで海外進出が一つの経営課題となっていることに衝撃を受けた。

    海外進出には、この他にも資金調達、派遣する人やよいパートナーの選定、複雑な諸手続き等々、多くのクリアしなければならない問題かある。また、為替リスク、カントリーリスク、相手側の信用リスク等のリスクも付きまとう。大企業ならば一つの失敗は挽回可能であるが、中小企業にとってはそれが命取りになりかねない。中小企業にとっての海外進出は大企業よりもハードルを高く設定しておかなければならない。

    しかし、長期のトレンドで見ればわが国では少子高齢化・人口減少が進んでいく。当然労働人口は減少し、市場も縮小する。いずれは「海外」という選択肢を選ばなければならなくなる企業が多いであろう。その備えとして進出は決断しなくても、知識・情報は常に手に入れておくべきである。
    海外進出にも輸出、委託生産、合弁、独資等があり、この順にハイリスク・ハイリターンになるので中小企業の場合は、社運を賭する事態にならないように、まずはリスクの小さい方から選択するべきであろう。数社が提携して進出する方法も検討に値する。
    親企業に追随して進出する場合は、進出先の国を選ぶ余地はないが、自主進出の場合は各国の情報を集め、比較する必要がある。ここでは現地生産を前提に、多くの企業が進出している国々を、東アジア諸国(ASEAN各国、中国、インド)の中から選んで紹介する。

    東アジアの国々(JETROサイトより)

    なお、情報収集には日本貿易振興機構(JETRO)の情報が充実している。また、ASEANの工業団地についてはアセアンセンターのサイトで調べることができる。国際協力銀行や現地日本人商工会議所のレポートも参考になるし、JETROの海外投資アドバイザー制度や中小企業基盤整備機構の国際化支援ア ドバイス制度、身近なところでは各自治体や金融機関の海外進出相談室など直接相談できる窓口もある。すでに進出済みの企業から話を聞くのも実際に経験して いるだけに参考になる。なお、進出を決定する前には必ず現地を視察することをお勧めする。頭に入った知識とは違うものが見えてくるからである。

  2. 日本企業の進出先としてどの国が選ばれているか
    まず参考として日本からの直接投資の額と、進出企業数を国別に示す。
    表1 対象国別日本企業の中国・インド・ASEAN直接投資動向(金額単位:百万US$)(JETRO)
     国名  2005  2006  2007  2008  2009  2010  合計
     中国  6,575  6,169  6,218  6,496  6,899  7,252  39,609
     インド  266  512  1,506  5,551  3,664  2,864  14,363
     タイ  2,125  1,984  2,608  2,016  1,632  2,248  12,613
     マレーシア  524  2,941  325  591  616  1,058  6,055
     インドネシア  1,185  744  1,030  731  483  490  4,663
     フィリピン  442  369  1,045  705  809  514  3,884
     ベトナム  154  467  475  1098  563  748  3,505
    表2 進出日系企業数
    国名 企業数
    中国 29,199  2008年10月
    インド 810  2008年10月
    タイ 1,291  バンコク日本人商工会議所のメンバー企業数 (2008年)
    マレーシア 1,432  製造業738、非製造業694 (2009年)
    インドネシア 1,005  インドネシア投資調整庁資料(2011年)
    フィリピン 1,075  在フィリピン日本国大使館「進出日系企業実態調査(2011年)」
    ベトナム 843  ハノイ周辺371社(2009年ハノイ日本商工会加入企業)、
     ホーチミン周辺472社(2009年ホーチミン日本商工会加入企業)

    ※表2について:資本比率などで各国の日系企業の定義が違い、また商工会議所メンバーのみを計上しているところと現地政府への届け出企業数を発表しているところがある、集計年度がまちまち、など単純に比較できる数字ではない。ここでは目安としてどの国に進出している企業が多いのかを感じていただくために、あえてJETROの数字を国別に取り出して一覧表とした。

    これを見ると直接投資額、進出企業数とも圧倒的に中国が多い。次いで進出済み企業数で多いタイ、マレーシアを最近の投資でインドが追い上げ始めたということができる。
    こういう状況を踏まえた上で次回以降、主要各国別に解説していく。


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